中小企業のベトナム進出を支援するビジネスが関西で広がり始めた。現地で採用する日本人を紹介したり、税務や輸出入業務を代行したりする。国や自治体による従来の支援に比べて、中小のニーズにきめ細かく応える。ベトナムはアジアの中でも人件費が安くインフラが比較的整っており、海外に出ようとする中小企業にとって有力な候補地になりそうだ。
■先行経験生かす
ベトナムの公営企業からも日本の中小企業を支援する動きが出てきた。ビンズン省で工業団地を運営するベカメックスは年内に、現地での事務手続きを代行するサービスを始める。現地法人の設立や税務・会計、輸出入業務などが対象となる。
同社は中小企業の多い関西に着目しており、「東大阪をそのままビンズン省に持ってきたい」と話している。
中小企業のベトナム進出支援は、これまで国や自治体、経済団体などが中心だった。民間によるサービスは公的な支援よりきめ細かく、中小企業が本当に困っている部分をカバーできるのが特徴。中小企業はリスクや負担を最小限に抑えて進出できる。
自らの進出経験を他の中小企業に生かしてもらおうというのが富士インパルス(大阪府豊中市)だ。同社は1997年にベトナムに進出し包装機械の生産を始めたが、現法設立の手続きなどで苦労したという。
■現地の情報発信
このほど有料のメールマガジンで中小が進出しやすい工業団地などの情報発信を始めた。今後は現地に拠点も置いて、採用、会計、通関手続きなどの支援に乗り出す方針。山田邦雄社長は「中小企業が進出後に事業に専念できるよう後押ししたい」と話す。
プラント工事会社のソルテック工業(大阪市)もベトナムに進出済みで、人材集めや顧客開拓のノウハウを無償で提供している。部品メーカーなど関係の深い日本の企業が同じ工業団地に出てくれば、ベトナムでの事業を円滑に進められるためだ。薛章彦社長は「相互補完のメリットは大きい」と話している。
人件費の安さ魅力 ベトナム政府も関西に関心
中小企業の進出先としてベトナムが浮上している理由のひとつが、人件費の安さだ。
日本貿易振興機構(ジェトロ)が製造業の作業員1人を雇う場合の2012年の負担額(社会保障など含む)を調べたところ、ベトナムは2602ドル(約23万円)で中国やタイの半分以下だった。もっと低い国もあるが道路やエネルギーなどのインフラが未整備で、実際に生産するならベトナムが現実的といえる。
さらに関西経済界はベトナムとの結びつきが強い。関西経済連合会は07年以降、ベトナム政府関係者などと「日越経済討論会」を毎年開催。大阪商工会議所も昨年、ベトナムに訪問団を2回派遣した。
ベトナム政府も部品など裾野の産業を育成しようとしており、関西の中小企業に強い関心を持っている。昨年11月末に来阪したブイ・クアン・ビン計画投資相は「ものづくりを支える関西の中小企業に投資してもらうことはベトナムの利益にもなる」と語った。
もっとも中小企業にとってベトナムがバラ色というわけではない。ジェトロによれば、日本のコスト感覚で生産すると現地で販売先を見つけられないこともあるという。
日本経済新聞2013年1月10日により