「ベトナム人にとって職場での寂しさは禁物。上司が『お父さん』になって、厳しくも温かく指導を」「成功しても失敗しても自分の責任という立場を与えて成長を促す」。人材育成などを手掛ける地場大手エスハイのレ・ロン・ソン社長は25 日、ホーチミン市内の日系中小企業を対象としたセミナーで、ベトナムでの人材育成のポイントについて指南した。
ロン・ソン社長は日本での留学後、人材研修や技能実習生派遣などを手掛けるエスハイを起業。2011 年には新社屋と職業訓練校「カイゼン吉田スクール」の新校舎の建設計画が、国際協力機構(JICA)による海外投融資の再開後初案件として選ばれた。
ロン・ソン社長は、「ベトナム語に『社会人』という言葉はない。高い能力を持つ人材が多い一方で、『心は家に置き、頭だけ会社に持ってくる』傾向がある」とベトナム人の特徴を流ちょうな日本語で説明した。
こうした特徴を踏まえ、ベトナム人材の育成には就業時間外の「飲みニケーション」などを通じた従業員との関係構築が有効。会社のミッションと個人の目標を共有し、「私の会社」としての認識を持たせることが重要と解説した。またベトナム人にとっては、「自分の存在に上司がいつでも関心を持ってくれていること」が必要として、父親や兄のような存在になることが重要と説いた。
また業務面では、「まとまった責任と権限を与えることで、仕事に対して強い責任感を持たせる」ことが成長につながると力説した。
セミナーは、日本政策金融公庫(日本公庫、JFC)と日本貿易振興機構(ジェトロ)が主催。約80 人の中小企業関係者などが参加した。ある出席者は、「職場が現在抱えている問題と、背景にあるベトナム人の考え方が結びつく」と感想を語った。
合わせてセミナーでは、KT会計事務所の大塩英人代表が「投資1年目の問題点および国際税務」について講演。現地法人立ち上げ期の日本本社からの支援費用の税務上の取り扱いや、海外からの機械購入における外国契約者税に対するリスク対策などについて解説した。
在越中小企業、黒字は52%
セミナー後半では日本公庫バンコク駐在員事務所が昨年実施した、中小企業を中心とした取引先の海外での業況調査について報告。ベトナムについては、直近決算期における損益が「黒字」と回答した企業は52%と東南アジア諸国連合(ASEAN)で最も低いものの、前期決算との比較では「改善」と回答した企業は71%で域内で最も高かった。また、今後の見通しについても、79%が増収、64%が増益と回答した。
また日本公庫は、海外現地法人における経営課題は現地での資金調達にあると分析。日本公庫が昨年ベトナムでも開始したスタンドバイ・クレジット(信用状)制度について説明した。
日本公庫によるベトナムでのスタンドバイ・クレジット制度では、同公庫が発行する信用状を担保に、中小企業のベトナム現地法人がベトナム工商銀行(ベトインバンク)からドン建て融資を受けることが可能になる。
同様の制度はASEAN各国で展開しており、タイでは昨年度は30 件ほどの利用実績があった。政策金利の再割引金利(リファイナンスレート)が6.5%のベトナムでは、金利自体は日本よりも高いが、公庫の担当者は為替リスクの回避や日本からの送金が不要といった利点を紹介した。
また日本公庫は近く、ホーチミン市を中心に取引先のネットワーク組織「懇話会」も立ち上げる予定。タイでも同様の懇話会があり、中小企業間の情報交換や勉強会が開催されている。
アジア経済情報紙2014年4月28日によりる。